展覧会レポート #1

北井一夫写真展 第1回プレ展示会(2022.10.29~11.25)に参加して

2022年11月16日
東條 守

2022年10月29日に北井一夫写真展第1回プレ展示会に参加してきました。私は千葉県に住んでおり、本写真展の実行委員会の一人として準備段階から関わってきました。

自宅に戻り数日後、隠岐の島町図書館のツイッターをみると、なんと写真展のことが記述されておりました。「北井一夫写真展 in 隠岐」のwebサイトが公開されましたというご案内です。一人でも多くの人に写真展のことを知っていただこうと、このwebサイトに投稿し、展示会開催にいたる経過も含めて感想を述べさせていただきます。

1.隠岐に16名が集まり写真展を企画する

 2022年4月17日有志16名が隠岐の島町にあつまり、北井一夫写真展を隠岐で開催しようと企画しました。実はこのときの呼びかけ人を中心として2012年11月24日~2013年1月27日に東京都写真美術館で開催された北井一夫「いつか見た風景」の展覧会に参加したメンバーで「北井一夫写真展を見る会」を作りました。この10年前の展覧会に隠岐の島町中村出身の木下越雄も参加しておりました。数年に一度、北井一夫の写真展がある都度、案内状が届くようになり、私も二度ほど東京で木下越雄と会うことがありました。北井、木下は日本大学で私の先輩にあたります。

 2021年3月に上記呼びかけ人が観光を兼ねて木下を訪ねて隠岐のホテルに宿泊したとき、ホテルの廊下に北井一夫の写真が飾られていました。後日北井に尋ねたとき、「実は隠岐で撮った未発表の写真がたくさんある」ことがわかり、2021年11月に木下、ホテルのオーナー石橋雄一らと相談し、2022年4月17日の会合となりました。

2.隠岐の島町は人間味溢れるところ

 人の縁とは不思議なものであります。ホテルのオーナー石橋雄一は木下越雄の甥であり、公益財団法人隠岐の島町教育文化振興財団小室賢治理事長は木下の妻の親戚である。小室理事長の世話もあり、2022年4月18日隠岐の島町役場を訪問し、池田高世偉(こうせい)町長、野津浩一教育長らと面談することができました。北井一夫写真展開催の申し入れに、「私も過去の隠岐の写真を見てみたい」「それは大いにやりましょう」と池田町長の賛同を得ることができました。村役場1階ロビーの廊下を展示会場とする案も話し合いました。

 池田町長、小室理事、石橋雄一(元町議、ホテルオーナー)の歯車が合った瞬間で、今振り返ると、この時の出会いと合意は「隠岐の人の縁」に恵まれた奇跡とも言えるものでした。

 この日隠岐に見えていたG&S 根雨オーナー石井仁志、gallery 176 西川善康は過去に幾度か北井一夫写真展を開催運営しており、隠岐写真展の会場設営作品展示をお願いしました。

3.写真展の準備が進み、10月29日のプレ展示会を迎える

 2022年6月16日隠岐の島町役場に「北井一夫写真展 in 隠岐」実行委員会委員長木下越雄、事務局長石橋雄一他2名で訪問しました。

 来年秋の9月下旬~10月下旬の本展示開催の確認と町役場1階ロビーの会場設営のための図面を拝借することにしました。教育委員会の野津係長より「広報の一つとして、北井さんの写真集、図書など、ミニ展示会を図書館で開催しましょう」と提案がありました。

 4月のとき小室理事長から、展示会場として賑やかな場所にあるスーパーサンテラスの2階ホールなども検討するようアドバイスがありました。

 実行委員会はLINEのグループ作成をおこない、日々の進展状況を確認していくにしました。

2022年9月3日木下越雄より報告

 先週図書館に行き、館長、担当者と打ち合わせを行い、本年10月、来年3月、6月か7月の3回、各1カ月期間で北井一夫写真展、懇談会を開催することになりました、とのこと。

(ここでも人の縁があり、図書館中林館長が隠岐の島町役場課長であった時代に、議会などで石橋事務局長と顔見知りとなっていました。実行委員会側では石橋事務局長の主導で図書館側との折衝を進め、日程調整もスムーズに進みました。図書館側も催事企画をいろいろ検討していたこともあり、現在に繋がっていきました。プレ展示第1回開催に向け具体的な話になり、図書館使用の展開はここから始まっていきます)

 10月14日隠岐の島町役場webサイトに「北井一夫写真展in隠岐 Vol.1開催について」の案内が掲載されました。

10月20日実行委員会の木下治代より報告

 先ほど町内放送で「写真家北井一夫氏の写真展とトークショーを図書館で行います」との放送がありました。町内放送は隠岐に住む者にはうれしい出来事です。

 この頃には写真展案内のポスター、チラシが出来上がり、配られたり、貼られたり、口コミなど情宣活動の展開がはじまりました。新聞の折り込みに写真展のチラシが入り、個別家庭に対しても案内が届きはじめました。

 10月28日(金)翌日に行われるプレ展示会の準備と会場設営のため、北井一夫ら5名が隠岐に入る。

 隠岐の木工職人谷田唯雄により制作された、隠岐産ヒノキを使った肌触りのよい額縁10点が、会場控え室に届いていました。大阪から石井が旅行カバンに積み込んで運んだ作品10点は、隠岐空港から会場へと運ばれました。石井と西川により額装された出品作品は北井一夫写真集38冊とともに、展示会場に無事設置されました。

4.来年秋の本展示の日程と会場が決まる

 広い図書館の奥の方にある展示コーナーは、LED照明に照らされた3つのガラス張りの作品設置台があり、ゆったりとした空間でした。壁面の長い長方形の展示ケースには7点の作品を吊るし、二つの台形ケースには作品2つ、1つを置き、書籍をそれぞれに配置しました。作業を進めている間、我々はその出来栄えに満足感を感じ、前日準備を終えました。

 北井一夫から「図書館の開放的空間と展示物のマッチングが良い。また図書館の中林館長と図書司書の女性たちの協力的、友好的な態度がとても気持ち良い。このプレ展示会場の図書館を本展示会場とするのはどうだろう」という案があり、昼食後図書館側との交渉を行いました。中林館長は「この図書館の展示コーナーの利用は2か月間でも構いませ んよ。図書館の休館日を除いてはね」と好意的な回答でした。隠岐の一角に新しい光をなげかけようとする館長の心意気が伝わってくるものでした。本展示は隠岐の島町図書館で開催。2023年10月1日~11月30日(2か月間開催)テーマ「隠岐の島」に決定。

 それから来年3月、6月のプレ展示の期間とテーマが次のように決まる。

 第2回プレ展示:「フナバシストーリー」2023年3月1日~3月31日

 第3回プレ展示:「抵抗:バリケード:アントニオ猪木」2023年6月1日~6月30日

5.10月29日(土)午後3時 北井一夫トークショー開催

 図書館の担当者は「事前申し込みは10数名ありましたが、30名の会場定員に届くかはあまり自信ありません」。写真展示コーナーで作品をご覧になられていた方が受付に集まりはじめました。そしてトークショー会場の席が徐々に埋まりはじまると、多少の混雑感が出てきて、やがて補助イスが必要となりました。このトークイベントに参加された入場者は39名、半数は女性で、会場は時に笑いに包まれ、質問コーナーでも盛り上がりがみられました。隠岐の島町の写真クラブ「おき写楽会」の7名の参加もありました。トークショーの後、参加者が持ち込んだ写真の品評会があり、北井一夫から褒められた方、ダメだしを受けた方、カメラ機材のアドバイスを受けた方など会場は最後まで熱気を帯びた状態が続きました。

 トークショーに島根県山陰中央新報社の鎌田記者が取材に見えました。11月2日の新聞(21面)にカラー写真込みの5段記事、約720字が掲載されていた(リンク先は記事の有料コンテンツのため一部のみ閲覧可能)。カラー写真で北井一夫が紹介されている。鎌田記者の熱い想いが伝わる。

(記事の紹介)

・北井さんは1974年に雑誌「アサヒグラフ」で、「村へ」を連載した。農村を歩いて人々に溶け込み、日本の原風景を写した作品は高く評価された。75年に写真界の権威とされる木村伊兵衛賞を受賞した。

・「村へ」の取材でまず隠岐に赴いた。日本大芸術学部写真学科に籍を置き、学生運動の渦中で出会った友人が隠岐出身だったのが、きっかけになったという。

・当時、日本は農業国から工業国に向かう政策が進み、写真界も都市での撮影が主流だった。北井さんは流れに逆らう反骨精神から、時代に取り残された農村に列車やバスを乗り継いで向かい、行く先々の出会いをカメラに収めた。

・写真家としての歩みを振り返り「写真に形式を持ち込むべきではない。自分も被写体も流動的なので、構図を決めずにいいなと思った瞬間、撮るといい写真になる」と語った。

・写真展の第1期は25日まで。午前10時から午後6時まで、入場無料で月曜休館。来年秋には、74年に町内で写した未発表の写真を多数展示する計画があるという。

6.最後に

10月31日(月)実行委員会ら5名が隠岐の島町役場訪問

 木下越雄より教育委員会中村課長ら3名に町役場の1階ホールでの展示会は、図書館展示コーナーに変更されたことを伝え、お詫びしました。中村課長は「図書館はこちらの管轄です。その方がスムーズにいく、協力させていただきます。10月29日のトークショーはたくさん人が入っていたと聞いてます」と回答されました。

 歴史書で何度も見聞きした「隠岐」に、私が初めて訪問した2022年4月17日の決意は、こうして形となり、奇跡を起こし、隠岐の島町で作品展が開かれています。

 人々の生活をテーマに撮影を続ける写真家北井一夫の「隠岐発」写真展がインスパイア(感化、啓発、鼓舞)され、影響を与え、2023年10月1日~11月30日の本展示会に、隠岐や島根県のみならず全国から一人でも多くの人が参加してくれることを願っています。

 作品の額縁からヒノキの香りが漂う。ヒノキの香りにはリラックス効果があると報告されており、図書館の展示ブースの居心地がよいのはそのせいかもしれません。

 是非皆様のお越しをお待ちしています。

(以上)

*この文章は敬称を省略しています。