なぜ、北井一夫は隠岐で個展を開くのか?

 なぜ、写真界の大御所北井一夫は隠岐で個展を開くのでしょうか?

 そこには長い、長い物語が存在しています。時代は今から50年以上さかのぼります。

 S(広島県出身、東京広尾在住、75歳)、北井一夫、K(隠岐の島町中村出身、中町在住77歳)は日大全共闘の時代、日本中が学生運動で騒然としていた時代に、同じ大学の仲間として、いつのころからか新宿の喫茶店に集まるようになり、当時の時代背景も手伝って自然に集会等に加わっていくようになりました。北井本人はその当時のことが自分の原点だったと後に語っています。

 その後、3人はそれぞれの道を歩み、会社創業経営者、写真家、家業継承などに携わってきました。その間、北井は2度にわたって隠岐を訪れています。1回目は1974年、2回目は2003年、隠岐の島の各地を巡って写真に収めています。(多くは未発表。5点だけ写真集や展示会で公になっています)。

 昨年、令和3年(2021年)11月、Sは隠岐のKを観光を兼ねて訪ねています。Kの甥が経営するホテルに宿泊したSは、飾られている写真を見て、北井のものであることを知り、写真展の開催を思いつき、帰京後北井本人に連絡し、積極的な開催意図を確認し、今日に至っています。以上が物語の概要です。

 若かりし頃、熱い情熱で結びついていた3人は、再び集まり、その当時を懐かしみながら準備作業を進めています。とても楽しそうです。

 写真展は全4回の開催見込みであり、最終回では隠岐を撮影した未発表のもの60~70点余りを展示し、開催する予定になっています。

 捨て去ったはずなのに何故か心から離れない原風景。私たちは、この個展を通して忘れてしまった日本の原風景を再び取り上げることで、私たちの原点を再確認するとともに、その作品世界に触れることで、失ってしまった人とのつながり、村の共同体意識の大事さなどを呼び覚ます一つのきっかけになればと考えています。